豊岡市長メッセージ「台風23号災害から1周年を迎えて」(平成17年10月20日　豊岡市防災行政無線放送原稿)

　市民の皆様、豊岡市長の中貝宗治です。
　あの恐ろしい日から一年がたちました。昨年の台風23号は、私たちのまちから7名の方の尊い命を奪い、市民の皆様の大切な日々の暮らしを奪い、美しかったふるさとを傷つけました。
　お亡くなりになりました方のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された方々に、改めて心からお見舞いを申しあげます。

　"あの日"以来、私たちは、失ったものを取り戻すために努力を積み重ねてきました。歯を食いしばり、支え合い、助け合いながら、前へ前へと進んできました。その努力は次第に実り、元の状態に完全に戻ったとはいえませんが、まちの復旧・復興は、全体として着実に進んでいます。
　何よりもまず、不屈の精神と未来への希望を決して失わなかった市民の皆様を私は誇りに思います。また、全国から寄せられた温かいご支援と励ましに感謝を申しあげたいと思います。

　これまで、豊岡市では、被災された方々の生活再建支援、道路・河川・農地・山林などの災害復旧、災害ごみの処理、産業の復旧・復興、水防訓練や研修会の開催などに、全力で取り組んできました。
　特に、昨年の反省から、災害情報の収集と伝達のあり方について検証し、検討を深めてきました。先月上旬に西日本へ襲来した台風14号の際には、検討の結果に基づき、防災行政無線・有線設備で情報をお伝えしたところです。
　市民の皆様へのきめこまやかな情報提供、専門用語の解りやすい言葉への置換えなど、「いつ、どのような内容を、どういう表現で」お伝えすると効果的であるかについて、今後も精度を高めてまいります。

　防災の世界に[黄金の72時間]という言葉があります。建物の下敷きなどになった場合、災害発生から72時間を過ぎると極端に生存率が下がります。救助は最初の72時間、3日間が勝負だということを表した言葉です。
　災害発生時に私たち行政側は、一刻も早く救出できるよう最善をつくします。自衛隊も全国各地の消防の応援も必ずやってきます。
　しかし、昨年のような全市的な大災害のときには、すぐにはすべての皆様のもとに向かうことはできないかもしれません。
　もちろん私たちは全力を尽くします。しかし市民の皆様も、ぜひ最初の3日間は自分で自分を守る、という意識と備えをお持ち頂きたいと思います。
　市民の皆様と行政がそれぞれ頑張り、力を合わせることによって、安全・安心の度合いは高まるはずです。

　今日、10月20は台風23号による被災の「メモリアルデー」です。「被災者追悼の集い」、「災害写真展」「幼稚園、小学校、中学校の防災・減災授業」など、災害から一年の節目の時にあたり、今日の日を中心として各種の関連事業を行っています。市内40箇所に浸水の記録を示す柱の設置も始められました。
　その目的は、あの災害を決して忘れない、風化させないということに尽きます。私たちは辛い経験をしました。失われた命は決して戻ってはきません。もう思い出したくないという方もあるでしょう。しかし、あの私たちの経験を今後に活かすためにも、あえて心に刻み込むことが大切であると思います。

　未曾有の災害の中で、私たちを勇気づけてくれたのは、人と人との絆でした。「孤立した。しかし孤独ではなかった」と言われた市民の方もありました。あの災害で最大の教訓は何だったのか。私自身は「人と人との絆こそが人間を救う」ということではないかと考えています。
　人と人との絆、そして地域の絆をより強めながら、かけがえのない命と財産をみんなの力で守ることのできる、「災害に強いまち」を共に創りあげていきたいと思います。
　市民の皆様の頑張りに改めて敬意を表しまして、台風23号災害のメモリアルデーにあたっての挨拶と致します。ありがとうございました。

　平成17年10月20日

豊岡市長　中貝宗治

未曾有の災害をもたらした台風23号の襲来からちょうど1年経った10月20日、日高文化体育館で被災者追悼の集いが開催された。
遺族や関係者などが集まり、豊岡市内で亡くなられた7人の方に対して冥福の祈りが捧げられた。